08. どろろ

どろろ (3) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)

どろろ (3) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)

カルトコミック

漫画『どろろ』のレビューをするのは少し気がひけます。自分がそうであるように、この作品に強い思い入れを持つファンは実は多いんじゃないかというのがまず一つ。前回のゲーム『どろろ』がでたことがきっかけで、そう感じた次第。
出だしの内容です。日本の戦乱の時代、生まれながらにして48体の魔神に身体のパーツを生贄としてささげられた主人公、百鬼丸。ハンディを抱えつつも、人を超える力も備える主人公は、魔神を一体、一体と倒し自分の身体を取り戻すことを決意します。道中、謎の子供であるどろろと出会い、二人の旅が始まるのですが…
初出が1967年とあります。これだけ長い間、ファンを魅了するのはなぜでしょうか。複数のストーリー、セリフがあり、謎が連鎖していることもありそう。手塚作品は、連載から単行本の時点で手を加えちゃう、話かえるのは珍しくないそうです。例えば『奇子(あやこ)』はエンディングが違うらしい。すごいなソレ。
奇子(あやこ) (上巻) (KADOKAWA絶品コミック)
どろろ』は連載が二つの雑誌にまたがり、TV版もあり、それぞれ話が少し違うそう。また、時代の要請(差別表現の撤廃)によりセリフも変わったそうです。クイズ番組できるな。
ここでは、文庫版の『どろろ』に基づきます。

「悲劇」の設定

生まれながらの絶望的な状況。ありえるかな人知を超えた力(魔神、魔物)は、無力な人の力を容赦なく叩く。この辺りは、別作連想しますね。詳細は次回。
ベルセルク (1) (ヤングアニマルコミツクス)
どろろ』の悲劇性の特徴ともいえるのは、この魔の力というものの起点に常に人間が存在していることです。人の欲望がきっかけとなり魔の力がよびだされ、善良だった人間の怨念が妖怪を生むという具合。真に恐ろしいのは人間というのも、普遍的なテーマですが、本作ではコレが徹底しています。
そんな中でも、必死に生き続けようとする主人公の姿には、やはり何か救いを求めずにはおれません。一方で、そんな「悲劇」を生み出した人間達の姿にはリアリティがあり、説得力を感じてしまう。
やりきれなさは続きます。

真『どろろ』の構造【ネタバレ】

前回、ゲーム版と原作の基本構造が違うとかきました。原作でも、魔神を数体倒した百鬼丸が希望を感じ始める姿があるのですが、百鬼丸の魔神倒しの構造については以下の解説を引用します。

〜身体パーツが百鬼丸に戻ってきたら、かれは並の人間になる。ところが、並の人間には、妖怪を見つけることも、退治することも、不可能になる。

     文庫版 『どろろ』1 解説(荒俣 宏) より

つまり、構造的に、百鬼丸は自分の身体を全て取り返すことができないようになっているのです。実は、このシチュエーションは、他の手塚作品でもうかがえます。『火の鳥』の「太陽編」のラストです。
火の鳥 10(太陽編 上) (朝日ソノラマコミックス)
獣の仮面の主人公は、獣であるが故の力をもっていましたが、「並の人間」となり、つきものが落ちたようにその魔力を失っている様が表現されます。それは、喜ぶべきことでもあり切なくもあり、大好きなシーンですが。
どろろ』に戻ると、こちらは上記のような収束が許されません。なんとか幸せへの道、希望はないかと胸が詰まる中、盲目のびわ法師があることを示唆します。「並の人間」に戻る必要は必ずしもないんじゃないか、「生きがい」となる目的はほかにあるんじゃないのかいというやつ。
また、文庫版では完全に「並の人間」であるどろろの存在も気になります。しかし、やはり居場所の違う二人は、同じ道が用意されてないようで…

ブラックジャック』夜明け前

百鬼丸はあの後、幸せになれたんかいな…」終わりのない物語、深淵の暗がりに、えてして魅了されつづけるものなのかもしれません。
少しハッピーな話題を一つ。

〜後年の人気漫画ブラック・ジャックは紛れもなく百鬼丸の延長線上にあるキャラクターです。〜中略〜 幼くして手足がばらばらになるほどの目に遭い、にも関わらず持ち合わせた天才性と努力の賜物で刃物の達人となり、人のために活躍するところなど、まったく同じといっても良いでしょう。

     文庫版 『どろろ』3 解説(手塚 眞) より

なんということでしょう。百鬼丸は生きていた! 欲望から離れられない人々を救うために、見返りとして莫大な報酬を受け取りながら(笑)。
ブラック・ジャック 1 (少年チャンピオン・コミックス)
時代性も含めて多種多様な分析ができそうな本作ですが、今回はこんなとこで。
しかし「百鬼丸の後の物語」は今も続きます。次回に続く。

「ガッツ兄ちゃ〜ん、おいてかないでくれよ〜!」