14. 極悪がんぼ

極悪がんぼ (1) (イブニングKC)

極悪がんぼ (1) (イブニングKC)

カタギとヤクザと

本作は、『カバチタレ!』と同じ作家コンビによる、いわば影の法律漫画です。
まず『カバチタレ!』について内容紹介すると、会社をクビになった主人公が元雇用主相手に法律の力を実感し、「実務法律家」である行政書士事務所のスタッフとなり、様々な難事件、難題に挑むというお話です。
カバチタレ!(1) (モーニング KC)
前にテレビドラマ化されました。そちらは、主役が女性(常盤貴子深津絵里)となって、随分爽やかな雰囲気でした。人間ドラマが主体で。。
カバチタレ! <完全版> 1 [DVD]
原作漫画ではシビアな現実をちょっとドロドロに描いており、実際に影響を受けたとみられる犯罪もおきています。それは役所から住民票をだま…(略 …だけど、『カバチタレ!』はやはりカタギといいますか、正義のお題目があって、善良な自営業者や、サラリーマンがトラブった時のチップスという感じがあります。
で、やっと本作ですがこちらは、ヤクザな事件屋に否応なく巻き込まれた主人公が、周りを見返すために裏稼業に挑み奮闘するお話。法律の裏道、お金稼ぎの裏技がてんこもりです。人間関係は食うか食われるかのドロンドロンだし、読めば「手探りの人生」というものを体験できます。
キャッチコピーは、「マネしないでください」(笑)。

青木雄二の系譜

本作の原作者は、かつて青木雄二作『ナニワ金融道』の取材に協力したことが縁で、漫画の世界に入ったそう。いわば弟子というか、今では後継者でしょうか。
ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)
ナニワ金融道』大好きだったのですが、あまりに鋭すぎて、社会全体がその後追いをしてきた感じします。銀行(金貸しの大元)はまだゴタゴタしてる一方で、サラ金はイメージを向上させて大衆化してるし、広い意味での金融業の雇用は増えてるんじゃないかな(銀行員は随分減ったらしい)。学歴ある若い人が携帯金貸し業やってたり。
青木雄二系譜の漫画は、社会矛盾をいちはやく、しかも漫画でコミカルに取り上げるのが真骨頂ですが、たまに世間の方が漫画よりもずっと安易な事が起きてきてる気がして、恐ろしくもなります。
こまねずみ常次朗 1―日焼け金融地獄伝 (ビッグコミックス)
なお、青木雄二系譜の漫画で、もう一つ読んでいるのが『こまねずみ常次朗―日掛け金融地獄伝』(すごいタイトル)。こちらは、「日掛け」といって、地方限定の金融。主に自営業者さん(飲食業とか)に金貸しをして、毎日、つまり一日ごとの売上を回収するお話です。イッターぃ

産業がない

さて、本作の特徴は、地方都市での産業の乏しさをまさに的確に表現してることだと思います。この辺り、『カバチタレ!』よりもずっと核心をついている。なぜなら、裏技であってもお金を稼ぐシステム作りは、つまり自分にとっての小さな小さな産業(=資産)を生み出そうとしていることだからです。(犯罪ダメです。念のため)
金持ち父さん貧乏父さん
なぜ、(時には法に触れてまで)そんなことをする必要があるのか?
「金が金を生む」業もそうなんですが、結局、資源も乏しい国で、皆がゆっくり食べれるほどには産業がないってことに尽きる気がします。これ前提。
これは、僕が地方出身だから感じることかもしれません。外国でもっと大変なところのほうが多いだろうし。でも、上に加えて「人よりお金を持っていたい」という感情をひたすら煽られ、もしも空回りの経済活動を続けているんだとしたら…
本作はなんとも他人事とは思えぬ不思議な漫画です。