21. アンダーグラウンド

アンダーグラウンド [DVD]

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文字通り「地面の下」

ユーゴスラビア連邦共和国であった地域、つい最近、セルビア・モンテネグロとなりボスニア・ヘルツェゴビナとわかれました。90年代、東欧の映画です。
ボスニア紛争コソボ紛争NATO空爆ミロシェビッチ政権崩壊。。。すっかり「戦後」を生きてる気分のところに、この地域では時代錯誤的といってもいいほどに第二次大戦後の争いが継続中でした。


http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/yugoslavia/index.html


この映画は、この地域の空気が痛く伝わってくる一方で、どこにいる人もまるで変わらない、普遍的な感情を描く作品です。内容紹介は画像のリンク先がとてもわかりやすいです。
第二次世界大戦、そして戦後ユーゴのチトー政権時代を舞台にしていますが、あまりなじみがなくイマイチそそらない場合は、漫画『石の花』を合わせて読むのもオススメです。セルビア人・スラブ人など多民族の対立、複雑な社会状況がわかるし、こちらの作品自体が凄く面白いので。坂口尚作品はほかもぜひ読みたい。
石の花(1)侵攻編 (講談社漫画文庫)
本作では、人間の終わりない報復も描いてますが、「実録 戦争モノ」として堅苦しく見るものではありません(残虐シーンなし)。極端な設定に逆にユーモアも感じつつ、そこらにある絶望話とは一線を画した、ヒトのギリギリの感情を描いた映画だと思います。
タイトルの意味は、直接的には戦後も続く(タイムマシン的な)地下武器工場。間接的には、進歩のない、地面から抜け出せない人間の感情なのでしょうか。

壮大な「三角関係」

本作は、見た人が必ず衝撃を受け、かついろんな見方ができる作品なので、ちょっとしぼってみてみます。
二人の男と一人の女が出てきます。男の一人は、ズル賢い知性があり、外交的で、如才ない。もう一人の男は、立派な体格で、恐ろしい執着心、エネルギーに満ち満ちている。幼馴染の三人が織り成す「三角関係」は、実に長期間に渡り、「こんな騙し方ありなんか?」という意味で、(おかしな表現ですが)壮大なスケールの「三角関係」を展開します。それでいて、男の一人がついに本音を吐露する場面は、地下武器工場の暗がりの中だったりして。この辺、なかなか素直になれない人間の本性を象徴している気もします。
愛と幻想のファシズム(上)
ちなみに、小説の村上龍作品にも「三角関係」のモチーフがよくでてきます。『愛と幻想のファシズム』や『コインロッカー・ベイビーズ』も一応そうかな。やはりタイプの異なる男二人に、一人の女。村上龍は、本作でたころ監督と対談してるし、繋がるところ多いのでしょう。
コインロッカー・ベイビーズ(上) (講談社文庫)
人間、素直にチャッチャッと決められれば、問題も少ないでしょうが、同時に全く異なるタイプが気になるのも性(さが)だし、お話のうえではそれが妙に安定感もあって、繰り返しでるテーマなのかもしれません。


さて、ここまでで本作に少し興味でて「見ようかなぁ」という人で、【ネタバレ】嫌いな人は、下は読まないほうがいいです。





その先のエンディング【激ネタバレ】

本作の特徴のひとつにエンディングがあります。
まず、現実的な歴史、状況、世界観どれについても、救いがないんですね。どうなるのか…………死後のシーンが描かれます。それもハッピーで、少し皮肉めいた。
深刻にドキドキハラハラと見入っていた僕は、思わず「…ズ…ズルい」とつぶやきました。だけど、本作ほどこのような形のエンディングがふさわしいものもないかもしれません。最後はエムリンクmLinkらしく、「あの世エンディングもの」リンクです。
伝説巨神イデオン 接触篇/発動篇 【劇場版】 [DVD]
古いですが、アニメ『伝説巨神イデオン』。ガンダムより好きです。難解ですが、見直してみるとストーリーはやはり救いがなくて、皆おっ死ぬのも(アニメとしてはぶっ飛びだけど)違和感ないんです。驚いたのは、その先の死後の世界、宇宙と同化するキャラの魂まで描いたこと。ビジュアル的には、宇宙空間に浮かぶスッポンポンのキャラクターが漂う様です。すんごいアニメだョ。
タイタニック [DVD]
次に、とてもメジャーな『タイタニック』。こちらは、誰もが「最後は沈む」とわかっているので、いくらレオ様に涙した人でも、「来るか来るか」という予想はあったのではないでしょうか。映像が素晴らしく美しく、少し明るく感動できました。
みてみると、「あの世エンディング」は、本編のストーリーではどうにも救いがもてなくて、でも最後にはちょびっとハッピーな気持ち、ほっとできる余韻があります。そうでないと、ご都合主義ぽくみえるんだろうな。