27. ALI

アリ [DVD]

アリ [DVD]

ボンバイエ元祖

最近まで「ボンバイエ!」と聞くと、年末! という感じしたもんですが、今年はないみたいですね。ちなみに、「ボンバイエ」の意味は、正確には「ボマ イェ(Boma ye)」で直訳すると「彼を殺せ」なんだそうです。
http://www.melma.com/mag/32/m00012532/a00000054.html
さて、この映画はその元祖、ヘビー級ボクサー モハメド・アリの半生を描いたものです。内容紹介は、タイトル画像のリンク先にあります。
主演のウィル・スミスがとてもいい感じ。もともと僕は、この俳優あまり好きではなかった。(気軽に)世界を救う!って役だったり、ステレオタイプアメリカンヒーローだったり。。ところが、本作では実在の人物を実にシリアスに演じています。すっかりファンになりました(笑)。
マルコムX [DVD]
本作はアメリカ60〜70年代の社会状況をみせていて、ちょっと社会派タッチの面あります。アリは「ブラック・ムスリム」(黒人イスラム教グループ)に属していて、政治的なモチベーションもあったもよう。このへん『マルコムX』と合わせてみると分かりやすいのかしら。

コラテラルのコヨーテ 【ネタバレ】

本作みるまでにステップがありました。先に『コラテラル』を見たんです。こちらは、トム・クルーズ主演のクライム・サスペンス。トム様ファンにとっては、「トム様、大・大活躍」を期待してはいけない、渋〜い佳作です。
簡単な内容紹介。アメリカ NY、タクシードライバーのマックスは、いつものように都会の深夜に働きます、たまたま乗せたお客が、実は殺し屋のヴィンセント(トム・クルーズ)。脅かされたマックスは、一晩の暗殺ノルマをこなそうとするヴィンセントに否応なく巻き込まれるのですが…
水漏れ修理collateral
コラテラルとは 間違った時に、間違った場所に偶然居合わせてしまうこと=巻きぞえ」とのこと。
ちなみに、トムの銀髪は、『ジャッカル』のリチャード・ギアをすごく意識してるように思うけどどうなんでしょ。
ジャッカル デラックス版 [DVD]
コラテラル』では、物語の中盤に、都会の深夜に場違いなコヨーテが出てくるシーンがあります。セリフはなく、音楽だけで、映像はコヨーテが横断歩道をトボトボ歩き、タクシーをとめたマックスとヴィンセントがしばし、惚けてそれをながめるというもの。このシーンは、二人の心理の転機を描いており、たった1分ほどの映像で、物語り全体の転機と、テーマをも象徴しています。
わずかな間でいろんな意味がある、セリフでの説明はない(必要ない)。これはいわば「抽出された映像」ともいうもので、非常に感じ入ったのでした。
このようなシーンを期待して、同じマイケル・マン監督の作品である本作『ALI』をみたんです。そしたら…、あったんですねェ。。以降では、本作での「抽出された映像」シーンをみていきます。

ALIの壁画 【ネタバレ】

ベトナム戦争への徴兵拒否により、数年のブランクを余儀なくされたアリの復帰戦は、アフリカ ザイールのキンシャサでした。当時のヘビー級世界チャンピオン ジョージ・フォアマンとのこの対戦は、後に「キンシャサの奇跡」と呼ばれます。
アメリカでの黒人差別に対する怒り、また、久しぶりの試合、若い強敵への不安、そんなこんなを背負ったアリは、ルーツであるアフリカにおりたち、意外なものを目にします。それは彼を英雄視して、「アリ ボンバイエ!」と熱狂的に叫ぶ人々。さらに目にします、アメリカよりもずっと貧しい人々の暮らしを。
さて、問題の「抽出された映像」は、以下のようなものです。
ある時、ランニングに出かけたアリは、彼についてくるキンシャサの子供達に導かれるように横道にそれます。視界を流れる貧しい家屋。裏道に横たわるこわれた壁、落書きがあります。「アリ! ボンバイエ!」(「アリ! 奴をやっつけろ!」)やがて、貧しい市場に到着。熱狂的な人だかりがあります。ある家屋の前で皆何かを眺め、叫んでいる。「アリ! ボンバイエ!」 人々の頭越しにそれが少しづつあらわれる、家の外壁になにかがかかれているよう。やはり壁画です。真中に、英雄として大きく描かれたアリの姿。赤いグローブと白いトランクス。「アリ! ボンバイエ!」 対戦相手はいません。周りにかかれているのは…、戦闘機、戦車。戦争のモチーフ。「アリ! ボンバイエ!」 アリ(ウィル・スミス)は、すわった目でそれを眺めている。表情はない。つかみとれない。。熱狂する周りの人々。。。
Muhammad Ali
本作は、アリの半生を、臨場感ある試合や、アメリカ社会面おりまぜて様々にみせてくれますが、この「キンシャサの奇跡」前をピークに、一気に収束させていく名作だと思います。

「ボンバイエ」ってのは、決して「年末大騒ぎ! ハリテくらって元気に年越そう!」という意味ではなかったのですね〜…。気になる方、オススメの映画です。