30. ヨコハマ買い出し紀行

ヨコハマ買い出し紀行 12 (アフタヌーンKC)

ヨコハマ買い出し紀行 12 (アフタヌーンKC)

ほっと一息

例えば旅行から帰って、わが家の玄関で、ほっと一息。例えば飲み会の騒ぎから抜け出し、寒空の中、ほっと一息。例えば一日の仕事を終え、夕方にお茶して、ほっと一息。
本作は、いろんな「ほっと一息」がいっぱい詰まったような漫画です。ストーリーに興奮して、一気呵成に読むものでもなく、しみじみ〜とした雰囲気を少しづつ楽しめる作品。
内容紹介です。いつかの未来。海面上昇した、ヨコハマ、武蔵野、ヨコスカ辺りが舞台。非常に人口が少ない(減った?)世界で、主人公のアルファさんは、郊外の喫茶店を細々と営んでいます。一日にお客さんが一人もこないことも。それでも彼女の日課は、愛車のスクーターに乗って、(コーヒー豆などの)買い出しにでること。彼女と周りの人々(ガソリン屋のおいちゃん等)との触れ合いと、「終わり」の後のようなこの世界の謎が、少しづつ、少しづつ語られる物語。
いちおうSFです。主人公のアルファさんは、見た目は全く素敵なお嬢さんの、アンドロイドであったりします。また、高度な文明の名残などもかいまみれます。だけど、それらを全く気にせず、美しい風景描写に和んだり、静かなたぞがれの雰囲気に浸るだけでも独特の魅力をもつ漫画です。
AKIRA(1) (KCデラックス)
世界観でリンクすれば、『AKIRA』や『エヴァンゲリオン』が、なにかの「終わり」、またはその前後を描いた作品であるとすれば、さらにそのしばらく後の世界、「終わり」の後のたそがれの中でも、それでも静かに生活していく人々を描いた作品です。
新世紀エヴァンゲリオン (9) (カドカワコミックス・エース)
おかゆ代わりにどうぞ。

SFらしくないSFリンク

とても雰囲気があって、あまりSFらしくない本作。
ほのぼのSFで、そして雰囲気ある作品でまず思い出すのは、あさりよしとおの『宇宙家族 カールビンソン』。
宇宙家族カールビンソン 1 (アフタヌーンKC)
こちらは、ほのぼのした中にも不条理ギャグやブラックユーモアの毒がはいってますが、絵柄のかわいらしさ、風景のやさしさで、毒が相殺されちゃってる感じのもの。主人公のコロナちゃんがカワイイ。宇宙家族のお母さんは、マリモみたいな異星人なんですが、表情があってお母さんらしさがにじみでてる。不思議な作品です。
機動警察パトレイバー アーリーデイズ VOLUME 1. [DVD]
次に、ほのぼのが前面ではないですが、『機動警察 パトレイバー』のファーストOVA埋立地のじっとり暑い風景描いてたり。これまた近未来の設定だけどSFらしくないです。個性的なキャラがたっているドタバタコメディ。後の「劇場版2」などにも通じるシリアスなエピソードもあるけどね。。
これらの作品に共通するのは、SFの設定にたよってない、むしろキャラクターをひきたたせるうえでSFになってる感じでしょうか。みてるとSFは成熟してるんだなぁと思います。
ASIMOが走った! てのは現実だけど、現実が汚染されてるというか、もう馴染んじゃってますよね。ふとしたときに、「やっぱ無意味なんじゃ・・・」と思ったりもしたり(笑)。

たそがれる未来

とはいえ、SF的背景も意味深な本作に戻ります。
本作は、「一体、何が起きてこうなったんだ!?」というので、お話をぐいぐい牽引しているわけではないんです。むしろ「あぁ〜。何か起きてこうなったんやな〜。夕日きれいだな〜」てな具合。
少しづつ明らかになる本作の世界というのは、僕のあてずっぽうでは、次のようにリンクします。『エヴァ』が、首都機能が移転された中部地方でドンパチやって、合間に学校生活なんかあるなかで、本作に出てくる周辺の地方ではそれにすら気づかず、の〜んびりと海を眺めて、緩慢に、滅びていく、という感じなのです。
それでも人々は、静かに、だけど根をはって、植物のように生活している。そこで新たに生まれる思い出を大事にしている。こういうのが本作の魅力だと思います。
風の谷のナウシカ 1 (アニメージュコミックスワイド判)
たそがれる未来の中で、それでも人が生きる様を描いているのでは、漫画版の『風の谷のナウシカ』がなつかしいですが、ちょと「人類への警鐘」的な面もあるし悲壮感が強すぎる。
一方で、本作の人々の様は、語られることが少ないためか、それとも生活が細やかに描かれているためか、非常にリアル。
本作のような世界でも、ほっと和める瞬間が迎えられること。やがてくるであろう静かな悲しみに、じっと耐えねばならないこと。これはまさしく、現実なんだと思えてくるのです。