18. あずみ

あずみ (1) (ビッグコミックス)

あずみ (1) (ビッグコミックス)

ハードボイルド チャンバラ

人気作で、読んでない人も「なんとなく知っているかも」というイメージあるかもしれません。コミックの表紙で、一貫して描かれているのが主人公の「あずみ」という女剣士。
そういえば、上戸彩主演で映画化されましたね。
あずみ スタンダード・エディション [DVD]
内容紹介です。日本の戦国時代。関ヶ原の戦い前、豊臣から徳川へと移り変わる、混沌とした治安の世の中が舞台。人知れぬ天才兵法家によって、あずみをはじめとする孤児たちが、隠密剣士(忍者とまた違う)としての英才教育で育てられているところから物語は始まります。彼らには「枝打ち」と呼ばれる(主に戦国大名の)暗殺によって、太平の世を築くという使命が課せられるのですが…
本作は、「あずみって面白いの?」とか、「あの女の子どんな人?」という問いに、「1巻だけ試し読みすればいいよ」と明快に答えることができます。1巻に作品の持ち味、例えばインパクトある設定、スピードアクション、残虐シーン、心理描写などが凝縮されてます。
僕の感想ですが、時代劇だけど「メチャめちゃハードボイルド」だと思います。「…強くなければ…やさしくなければ…」というやつ。なのに、女剣士の主人公。そこが、とにもかくにも魅力的なんですよねェ。
長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

聖と俗のコントラスト

昔は酸っぱかったワインが熟成されて、ンマイ!となるように(実際そんな経験ないけど)。小山ゆう作品には、円熟の味を堪能させられます。本作の特徴の一つであるアクションもそうだけど、特に登場人物の心理描写がいいんです。
がんばれ元気 (16) (小学館文庫)
覚えているのは『がんばれ元気』からだから大ベテランですね。でも実は僕、この作家の昔の漫画苦手でした。(主に天才的な)主人公の引き立て役として、醜く、妬み屋で、ずる賢い小人物がよくでてくるから。人間のやらしさを表現するのが上手いと思った。いわば、聖なる人と俗な人の比較対照、コントラストが単純すぎて、不快感ギリギリでした。
それが劇的にかわったのが『お〜い! 竜馬』なのでしょうか。こちらも凄く面白い漫画なので、興味ある人はぜひオススメ。一気に読破しちゃいます。
お~い!竜馬 (第1巻) (ヤングサンデーコミックス)
『竜馬』での、聖と俗のコントラストですが、こちらは歴史モノだから、そうそう単純に善悪分けられないんですよね。幕末だから特にいろんな思想が錯綜してて、みんな正義ぶってる。
それでいて、竜馬という英雄がきちんと描かれ、魅力的なんです。
過去の遺恨を気にせず前を見る竜馬、小人物の感情からいつも自由である竜馬。作品全体が突き抜けた感じします。

聖と「?」のコントラスト【ネタバレ】

さて、じゃあ本作はどうかというと、俗な小人物いっぱいでてきます(笑)。なんだけど、主人公が、それらもひっくるめて高みにあがろうとしている印象がある。この辺が本当に新鮮です。作中ででてくる「(あずみは)返り血を浴びれば浴びるほど、菩薩となるのだ」というセリフに集約されます。
思うに、あずみにかかわった人々の多くは、(例え殺されちゃっても!)彼女の魂に触れることで、救いを得るのです。
英雄とはまた一味違う、聖なる人物を描くことを追求していると書くと、イエス様のお話と誤解もあるでしょう。しかし、本作ではそれが、超一流のエンターテイメント(剣劇など)にのっかってるから、素直に心にしみてきます。まあ、どんどん辛くなる状況で、主人公にばかり償いが求められることは時に辛く、何かひっかかりもするのですが。
ところで、本作の最近の展開では、コントラストという意味で非常に面白い展開になっています。新相棒の「千代蔵」です。彼は剣がたち、醜く、知性は幼児並で、言葉に不自由、そして無垢な心を持つのです。あずみはまたもや彼の魂を救い、一人取り残されるのか? はたまた彼こそがあずみの魂を救う人なのか? とても楽しみ。
鉄コン筋クリート (1) (Big spirits comics special)
ちなみに、登場人物の心理的コントラストで連想するのは『鉄コン筋クリート』。こちらは比較というよりも、影響し合い、混ざり合い、それに伴う世界の変化という構成ですが。松本大洋作品は後日とりあげます。
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